クーラーとジューサー

大阪の夏は東京より暑いと相場がきまっているのに、わたしの友人が大阪から帰って来て大阪って涼しいぜと、真顔で言った。聞いてみると、この友人は、特急こだまで西下し、駅につくや、会社のカー・クーラー付きの自動車でホテルに行き、夕方からまた冷房のよく効いた料理屋の宴会に出て、ふたたび涼しい夜行で帰って来た。午前九時すぎ、これから暑くなろうとする東京の町の中に出て、東京は暑い、大阪は涼しいと思ったというので
ある。
これで「なんて東京は暑いんだ」と言われたのでは、東京は立つ瀬がないが、しかし暑い暑いと言われている大阪も、こういう体験から感じられては、暑いという実感はうすいだろうと思う。友人はみんなに、何を言ってるんだと失笑されたが、かならずしもトンチンカンではないかもしれない。
東京でも、冷防装置ということが、もはや、あたりまえのことになった。一二年前に、わたしは自分の書斎に冷房器を人れてみた。わたしのところではどう工夫しても、夜、小虫どもが侵入して米るのが防げない。机に向かってものを読み、ものを書くのが仕事のわたしは、しめきって小虫の侵入を防ぐために、しめきることが出来るように、冷房の設備をしてみた。結果は大そうよかった。
先議の人から、一部屋冷房なんかしたら、家中の者が集まって来て、仕事なんか出来やしないぞ、と言われたが、いざやってみると、学期末の勉強でフウフウ言っている子どもたちも、使っていいよと言ってあるのに、やはりわたしの部屋にはやって来ない。自分の机でなくては勉強しにくいのか、それともおやじがけむたいのか、どうかわからないが、あるいは動物的本能から、夏は暑いのが自然であって、人工的な涼しさは、健康的でないことを知っているのかも知れない。
さて、われわれ大人たちにとって、ルーム・クーラーという、不自然な人工冷却が、健康に全く無害であるかどうか。わたしの兄は、前から神経痛があるが、店内の冷房を効かせて、執務していると、てきめんに神経痛に悪いそうである。冷却した部屋に居っきりもわるいだろうが、暑いところと、出たりはいったりするのは、もっと悪いだろう。
今、四十代の末期にいるわたしの、現在及び将来の健康に、書斎のルーム・クーラーはどういう影響を与えるのだろうか。もちろんクーラーの製作者にはもちこめない苦情にしても、健康管理の面からの、責任のある答えを聞きたいものである。
同じような疑問が、ジューサーについてもわたしにはある。
わたしは、ぎらいではないが、野菜と果物とには、つい手が出ない。母が心配して、ジューサーをすすめてくれた。しぼって飲めば、わり合いに飲みやすい。ちょっと手の出にくいにんじんなんかでも、しぼりこんでしまってあれば、知らずに飲んでしまう。二日酔
いの朝などは、ジューサーでしぼった果汁に限るようである。
ところで、ジューサー製作の果汁では、胃の働きがらくすぎて、退化しやしないかというのが、このごろのわたしの心配である。野菜や果物をジューサーにかけると、そのしぼりかすがうんとたまる。つまりそのしぼりかすも、本来は体内にはいり、胃や腸はそのかすを生み出して、そとへやがて送り出す。そのための働きは相当なものだろう。ジューサーによる汁をのむことによって、胃はその働きをしないですましている。
それが胃にとっていいことかどうか。これもジューサーの人体に及ぼす現象として、専門家の答えをききたいものである。〈三七・九〉